アイルランドの酪農

酪農場

アイルランドの乳製品産業の基礎にあるのは、複数世代による家族経営の酪農の伝統です。複数世代による家族経営の酪農場の数は約1万7,000にのぼります。

アイルランドの酪農場の平均面積は32.4ヘクタール、つまり0.32平方キロメートルで、そこで平均83頭の牛が飼われています。2021年には、アイルランドの乳牛の数は合計で160万頭となり、約88億リットルの牛乳が生産されました。1頭あたりでは5,648リットルです。

島であること

アイルランドの国土面積は690万ヘクタールです。そのうち64%が農業に利用され、農業に利用されている土地の81%は牧草、干し草、または飼料の生産に利用されています。常に育てられている牧草は炭素を貯蔵する役割を果たしています。また、アイルランドの酪農家は複数種の牧草を使用しており、これは生物多様性の向上および牛の健康の向上につながっています。さらに、アイルランドでは、牧草が育つ季節が北半球で最も長くなっています。アイルランドに牧草が育つ季節が長いというメリットがあるのは、アイルランド島が欧州の西端に位置するため、温暖な気候、十分な降雨量、および豊かで深い土壌に恵まれているからです。

農業目的に十分な量の水が、雨および地下水から自然に供給されます。そのため、土地を灌漑する必要がありません。アイルランドは平均年間降雨量が1,750–2,400mmであり、2月から11月まで牧草が育つのに最適な環境となります。

こうして、酪農業で必要な牧草を確保できるのです。大西洋の影響を受けて穏やかな気候となっているため、極端な温度になることはありません。

そのおかげで、牛は1年の大部分を、屋外で牧草を食んで過ごすことができます。その多くが沿岸近くにある丘および山によって、強風が吹くこともなく、海からの直接の影響を受けることもありません。さらに、アイルランドには、PM10濃度がEUで下から4番目という、自慢の澄んだ空気があります。PM10とは、空気中に浮遊する、直径10マイクロメートル以下の粒子のことです。EUには、PM2.5濃度がWHOが設定した上限を超えていない国は7ヶ国しかありませんが、アイルランドはその1つとなっています。

このように、農業に最適な条件が揃っていることで、アイルランドの牛は1年で平均240日を牧草地で過ごすことができ、その食べ物の95%は牧草となっています。

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牛乳の供給量および品質の向上

アイルランドでは、2015年にEUの生乳クォータが撤廃されて以降、一貫して牛乳の生産量が増加してきました。2021年だけでも、牛乳の生産量は前年から6%を超える増加となる88億リットルにのぼりました。生産量の増加とともに、最近アイルランドの牛乳では乳脂肪分およびタンパク質の濃度が向上しています。
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動物福祉に配慮した酪農場

EUおよびアイルランドの市民は、動物福祉にとても気を遣っており、動物に倫理的に接することを重視しています。EUの法律では、動物は知覚力のある存在、つまり喜びおよび苦痛を感じられる存在として認められています。 EUにおける動物福祉に関する規定の根底にある中核的原則とは、「全員が責任を持つ」というものです。この原則は、酪農場、輸送中、および食肉加工工場まで、サプライチェーンの全ての段階に適用されます。動物福祉に関する規定は、各国政府によって徹底的に執行され、その目的を果たせているかどうかモニタリングが行われています。